橋本病(慢性甲状腺炎)について

定義

1912年(大正元年)に日本人の橋本により発見された病気の為、橋本病と名付けられていますが、後に自己免疫機序により発症する自己免疫性甲状腺炎であることが判明し、慢性甲状腺炎とも呼ばれます。甲状腺における自己免疫によって病気が発症しますが、どのような機序で甲状腺に対する自己免疫が発生するのかは現在もまだ不明です。

症状

軽症例まで含めると、女性の約30人に1人が罹患しているともいわれ、全甲状腺疾患中、最も頻度が高い病気ですが、全く症状のない人もいます。 びまん性の甲状腺腫大、のどがつまる・圧迫される感じがする、全身倦怠感、肩こり、体重増加、便秘、耐寒性の低下..etc.

検査

甲状腺エコー、採血(抗TPO抗体、抗サイログリン抗体、TSH、FT3、FT4)、甲状腺穿刺(細胞診が必要なこともあります)

治療

甲状腺ホルモンが正常な人では、特に何も治療は必要としないが甲状腺が大きく、圧迫感..etc.が強い時は縮小効果を期待して治療する場合があります。甲状腺ホルモンが低下している人では、甲状腺ホルモンの補充が必要です。

橋本病と妊娠

ホームページやテレビなどで事実と異なって伝わっていることがあります。正しい知識を身につけ、不要な心配をしたり、間違った対処はしないようにして下さい。

1

橋本病は不妊の原因になる。→間違いです。

橋本病のために不妊になることは一切ありません。
甲状腺ホルモンが不足している際(甲状腺機能低下症)は、妊娠しにくくなる人があると言われています。そのような場合は甲状腺ホルモンをお薬として補充すれば解決することです。TSHを2-3以内にすることが安全な妊娠につながることがわかっています。つまり、甲状腺ホルモンが正常な人は妊娠について全く心配する必要はないのです。多くの橋本病の患者さんはホルモンが正常であることも知っていて頂きたい情報です。
検診は人間ドックにて甲状腺ホルモンが正常でも橋本病の可能性があることも、その裏返しとしてぜひ覚えておいて頂きたいことです。
私のクリニックや勤務先の伊藤病院(表参道)でも良く経験することですが、甲状腺が腫れている、あるいは何らかの甲状腺疾患が疑われる症状の場合は、ホルモンだけではなく、橋本病を認識する自己抗体の測定及び甲状腺を専門とする医療機関にて甲状腺の超音波検査(エコー)を受けて頂くことが非常に重要です。

2

甲状腺機能低下症の治療薬は胎児に良くない。→間違いです。

上記にも述べましたが、甲状腺ホルモンを正常にして妊娠期間を過ごすことが重要なことはご理解して頂いたと思います。甲状腺ホルモンが不足したまま妊娠すると、一般の妊婦さんより流産することが多くなります。
甲状腺ホルモンは体の代謝に関わる重要なホルモンなのです。甲状腺ホルモンのお薬は、甲状腺で作られているホルモンと同じものですから、胎児、乳児に悪い影響が出るはずがありません。

3

甲状腺機能低下症の治療薬を服用していると母乳をあげられない。→間違いです。

授乳しても全く問題ありません。
ただし、産後2-4カ月程度で無痛性甲状腺炎が起きてホルモン濃度が変わることがあります。ホルモンが上昇してバセドウ病のホルモン過剰状態になることがあるので、典型的なバセドウ病の症状、つまり動悸、発汗過多、頻脈、体重減少、軟便、食欲亢進などが現れることがあります。
これらの症状とホルモン高値のみから、他の医療機関(甲状腺を専門としない)にて間違ってバセドウ病と診断され抗甲状腺薬(メルカゾールやチウラジール、プロパジール)が処方されてしまうケースもいまだに絶えません。

このような間違いをおこさせないためにも、橋本病の患者さんにはこの無痛性甲状腺炎が生じやすいことを覚えておいて頂きたいことと、くれぐれも甲状腺を専門にみる私たちのクリニックや伊藤病院(表参道)を受診して頂くことをお勧め致します。
以上、簡単ですが、橋本病と妊娠に関する情報として述べさせて頂きました。無駄な心配をせず、通常通りの生活を送って頂くことを切に願って。