甲状腺が大きい?放置は危険?甲状腺専門医が原因と治療法を解説

執筆者:院長 五十子 大雅

「なんだか首元が腫れている気がする」「健康診断で甲状腺が大きいと言われたけど、これって一体何なの?」「もしかして、がんの可能性もあるの?」

このような首の腫れや違和感は、漠然とした不安を抱えながらも、多忙な日々の中で病院を受診するタイミングを逃してしまいがちです。しかし、甲状腺の腫れは、放置すると重篤な病気に繋がる可能性もあれば、適切な治療によってすぐに改善するものもあります。

この記事では、甲状腺が腫れる原因から考えられる病気の種類、病院で行われる検査、そしてそれぞれの原因に応じた治療法について、専門的な知識に基づいて分かりやすく解説します。この記事を通して、不安が解消され、ご自身の健康を守るための第一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

「甲状腺が大きい」と指摘されたら?不安の正体と対処法

健康診断や、ご自身で首を触った際に「甲状腺が大きい」と感じると、多くの方が「もしかして大変な病気なのではないか」と不安に思われることでしょう。しかし、甲状腺の腫れ(甲状腺腫)は、必ずしも深刻な病気を意味するわけではありません。甲状腺が少し大きいだけで、特に治療の必要がない体質的なものや、良性で経過観察で十分なケースも数多く存在します。

その一方で、甲状腺の腫れには、放置することで日常生活に支障をきたしたり、まれに悪性腫瘍(甲状腺がん)が隠れていたりする可能性も否定できません。多くの不安は、「何が起きているのか分からない」という情報不足から生じます。インターネット上の情報だけでは、ご自身の状態を正確に判断することは困難であり、不正確な情報に振り回されてしまうことも少なくありません。

このような不安を解消し、適切な対応をとるための最初のステップは、まずは甲状腺専門の医療機関(特に日本甲状腺学会認定の認定施設)を受診し、正確な診断を受けることです。自己判断で様子を見ることはせず、専門医に相談することで、ご自身の甲状腺の状態を正しく把握し、もし治療が必要な場合でも早期に適切な医療へ繋げることができます。

まず知っておきたい「甲状腺」の基本

私たちの体の新陳代謝をコントロールする重要な臓器である「甲状腺」について、その働きと、機能に異常が生じた場合の影響をこれから詳しく解説します。

甲状腺の役割とは?体の新陳代謝をコントロールする

甲状腺は、のどぼとけのすぐ下、気管の前にある、蝶々のような形をした臓器です。この小さな臓器が分泌する「甲状腺ホルモン」は、全身の細胞に作用し、まるで体のアクセルのように新陳代謝を活発にする重要な役割を担っています。体温の調節、心臓が動く速さ、食べたものをエネルギーに変える効率、さらには精神活動の維持まで、私たちの生命活動の根幹に関わる多岐にわたる機能をコントロールしているのです。

例えば、私たちが普段意識することなく行っている、体を動かす、考え事をする、体温を一定に保つといった活動のすべてに甲状腺ホルモンが深く関わっています。このホルモンの働きがなければ、私たちの体は本来の機能を十分に発揮できず、健康な生活を送ることが難しくなってしまいます。

甲状腺ホルモンのバランスが崩れるとどうなる?

甲状腺ホルモンの分泌量が多すぎたり少なすぎたりすると、体の新陳代謝のバランスが崩れ、さまざまな不調が現れます。ホルモンが過剰になる状態を「甲状腺機能中毒症」と呼び、新陳代謝が異常に活発になるため、動悸や頻脈、体重が減る、多量の汗をかく、そしてイライラしやすいといった症状が時にみられます。常に体が興奮状態にあるようなイメージです。

反対に、ホルモンが不足する状態は「甲状腺機能低下症」と呼ばれ、新陳代謝が極端に低下します。この場合、全身のだるさ、無気力感、体重が増える、むくみやすい、寒がりになるといった症状が現れます。体が省エネモードになり、全体的に活動が鈍くなってしまうと考えると分かりやすいでしょう。このように、甲状腺ホルモンのわずかなバランスの崩れが、私たちの心身に大きな影響を与えることがわかります。

甲状腺が大きい「甲状腺腫」とは?考えられる原因と病気

「甲状腺が大きい」という状態は、医学的には「甲状腺腫(こうじょうせんしゅ)」と呼ばれます。甲状腺腫とは、原因が何であれ、のどぼとけの下にある甲状腺が腫れて大きくなった状態の総称です。健康診断で指摘されたり、ご自身で首の膨らみに気づいたりすることがきっかけで判明することがほとんどです。

この甲状腺腫は、甲状腺全体が均一に腫れる「びまん性甲状腺腫」と、甲状腺の一部にしこり(結節)ができる「結節性甲状腺腫」の大きく2種類に分けられます。びまん性甲状腺腫の代表的なものとしては、甲状腺ホルモンが過剰になるバセドウ病や、慢性的な炎症を起こす橋本病などが挙げられます。一方で、結節性甲状腺腫には、良性のしこりである腺腫様甲状腺腫や甲状腺嚢胞、そして悪性の甲状腺がんなどが含まれます。

甲状腺の腫れ方によって考えられる病気の種類は異なりますが、どのタイプであっても甲状腺専門医による正確な診断が重要です。この後のセクションでは、これらの代表的な甲状腺腫について、それぞれの特徴や症状、原因についてさらに詳しく解説していきます。

甲状腺全体が腫れる「びまん性甲状腺腫」

「びまん性甲状腺腫」とは、甲状腺が特定の場所だけでなく、全体的に均一に腫れ上がった状態を指します。「びまん性」という言葉は「全体に広がる」という意味で使われます。

このタイプの甲状腺腫を引き起こす代表的な病気として、「バセドウ病」と「橋本病」があります。バセドウ病は、自己免疫の異常により甲状腺が過剰に刺激され、甲状腺ホルモンをたくさん作ってしまうことで、甲状腺全体が腫れる病気です。一方、橋本病も同じく自己免疫の異常によるものですが、甲状腺組織に慢性的な炎症が起こることで、甲状腺全体が硬く腫れ、多くの場合、甲状腺ホルモンの働きが低下していきます。

甲状腺にしこりができる「結節性甲状腺腫」

「結節性甲状腺腫」とは、甲状腺の一部に「結節」と呼ばれるしこりができる状態を指します。このしこりの多くは、命に関わる心配のない「良性」であり、過度に不安になる必要はありません。良性の結節の代表的なものとしては、「腺腫様甲状腺腫」や、液体がたまった袋状の「甲状腺嚢胞」などがあります。

しかし、甲状腺にできたしこりのごく一部には、「悪性腫瘍」、つまり「甲状腺がん」である可能性も含まれます。多くの場合、良性としこりとは見た目だけでは区別が難しいため、しこりに気づいた場合は、必ず専門医を受診して詳しいエコー検査を受け、正確な鑑別診断をしてもらうことが非常に重要です。

甲状腺が腫れる代表的な病気

甲状腺の腫れを引き起こす病気は多岐にわたり、甲状腺ホルモンのバランスに異常を来すものや、甲状腺にしこりを形成するものなど、様々な種類があります。ここでは、甲状腺の病気の中でも比較的頻度が高く、代表的なものとして知られている「バセドウ病」「橋本病」「甲状腺結節」「甲状腺がん」の4つに焦点を当て、それぞれの病気の特徴、主な症状、そしてその原因について具体的に掘り下げて解説していきます。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)

バセドウ病は、自己免疫疾患の一つで、体内で甲状腺を過剰に刺激する特殊な抗体(TRAbなど)が作られることにより、甲状腺ホルモンが大量に分泌されてしまう病気です。この状態を「甲状腺機能亢進症」と呼び、全身の新陳代謝が異常に活発になります。甲状腺全体が腫れる(びまん性甲状腺腫)のが特徴で、首の膨らみに気づく方もいらっしゃいます。

主な症状としては、動悸や頻脈、食べている割に体重が増えない、食欲が増す、手の震え、多汗、疲れやすい、イライラするなどが挙げられます。また、特徴的な症状として眼球突出が見られることもあります。20~40代の女性に比較的多く見られる傾向があります。治療法には、甲状腺ホルモンの分泌を抑える薬を服用する薬物療法、放射性ヨウ素を内服して甲状腺細胞を減らす放射性ヨウ素内用療法、そして甲状腺の一部または全部を切除する手術の3つの選択肢があります。

橋本病(慢性甲状腺炎)

橋本病は、バセドウ病と同様に自己免疫疾患の一つで、「慢性甲状腺炎」とも呼ばれます。これは、甲状腺組織に対する自己抗体(TPOAb、TgAbなど)が作られることで、甲状腺に慢性的な炎症が起こる病気です。炎症によって甲状腺は硬く腫れることが多く、触診でゴツゴツとした感触がある場合もあります。しかし、病気の初期段階では甲状腺ホルモンの機能が正常であることも多く、その場合はすぐに治療を開始せず、経過観察となることがあります。

病状が進行し、甲状腺の細胞が破壊されていくと、甲状腺ホルモンを十分に作れなくなり、「甲状腺機能低下症」へと移行することがあります。甲状腺機能が低下すると、全身の倦怠感、むくみ(特に顔や手足)、体重増加、寒がり、皮膚の乾燥、物忘れ、声がかすれるなどの症状が現れます。中年以降の女性に多く見られる疾患で、甲状腺ホルモンが不足している場合には、甲状腺ホルモン剤を服用してホルモンを補充する治療が行われます。

甲状腺結節(腺腫様甲状腺腫、甲状腺嚢胞など)

甲状腺結節とは、甲状腺にできるしこりを総称したものです。良性結節のほとんどは、特に症状を引き起こすことなく、健康診断で行われる首のエコー検査などで偶然発見されることが多いです。代表的な良性結節には、甲状腺の細胞が部分的に過剰に増殖してできる「腺腫様結節(腺腫様甲状腺腫)」や、内部に液体がたまって袋状になった「甲状腺嚢胞」などがあります。

良性結節の多くは治療の必要がなく、定期的な経過観察で状態を見守っていきます。しかし、結節が非常に大きくなり、首の外見に影響を与える場合や、気管を圧迫して息苦しさや飲み込みにくさなどの症状が現れる場合には、内容液を穿刺にて吸引したり、手術を検討することもあります。また、甲状腺嚢胞の場合、内部の液体を吸引する処置が行われることもありますが、一時的なもので再び液体がたまることも少なくありません。

甲状腺がん(悪性腫瘍)

甲状腺がんと聞くと、多くの方が不安を感じるかもしれませんが、甲状腺がんの多くは他の臓器のがんに比べて進行が非常にゆっくりで、一般的に「おとなしいがん」と言われています。特に甲状腺がんの9割以上を占める「乳頭がん」は、この傾向が強く、適切な時期に治療を行えば予後が良好なことが多いです。

甲状腺がんの初期には自覚症状がほとんどないことが多く、首にしこりとして触れることで初めて気づかれるケースがほとんどです。まれに、しこりが硬い、声がかすれる、飲み込みにくいといった症状が見られることもあります。診断には、超音波検査でしこりの性状を詳しく調べ、さらに「穿刺吸引細胞診」という、しこりから細胞を採取して顕微鏡で調べる検査が不可欠です。早期に発見し、主に手術による適切な治療を受ければ、根治が期待できます。

これって甲状腺の病気?症状セルフチェックリスト

甲状腺の病気は、甲状腺ホルモンのバランスの乱れによって全身に現れる症状と、首の腫れやしこりのように甲状腺そのものに現れる局所的な症状に大きく分けられます。ここでは、ご自身の体調の変化と照らし合わせながら、甲状腺の病気で現れやすい具体的な症状をリスト形式でご紹介します。ただし、これらのセルフチェックはあくまで目安であり、最終的な診断は必ず専門の医療機関で受けていただく必要があります。

甲状腺ホルモンが多すぎる場合(甲状腺機能中毒症)の症状

甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能中毒症では、全身の新陳代謝が活発になりすぎることで、以下のような症状が現れます。

  • 全身症状:疲れやすい、体重が減る(食欲が増すのに痩せる)、暑がり、汗をかきやすい
  • 精神・神経症状:イライラする、落ち着きがなくなる、集中力が低下する、手が震える
  • 循環器症状:動悸がする、脈が速くなる(頻脈)、息切れ
  • 消化器症状:食欲が増すのに痩せる、軟便・下痢になりやすい
  • その他:眼球が突出する(バセドウ病の場合)、筋力が低下する、月経不順

甲状腺ホルモンが少なすぎる場合(甲状腺機能低下症)の症状

甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症では、全身の新陳代謝が低下することで、以下のような症状が現れます。

  • 全身症状:全身の倦怠感、むくみ(特に顔や手足)、体重が増える、寒がり、体温が低い
  • 精神・神経症状:無気力になる、物忘れしやすい、眠気、動作が鈍くなる
  • 皮膚・毛髪:皮膚が乾燥する、髪が抜ける
  • その他:声がかすれる・低くなる、便秘、脈がゆっくりになる(徐脈)、月経不順

首の腫れやしこりの見分け方

ご自身で首の腫れやしこりを確認する際には、まず鏡の前に立ち、少し顎を上げて、首の輪郭を正面から観察してみましょう。次に、唾を飲み込んでみて、のどぼとけの下あたりで上下に動く塊がないかを確認してください。甲状腺は唾を飲み込む時に一緒に上下に動くのが特徴です。

また、指で軽く触れてみることも有効です。全体的に甲状腺が腫れているのか、それとも特定の場所に硬いしこりがあるのか、そのしこりの硬さ、表面の滑らかさやゴツゴツ感、押したときの痛みがあるかなどを確認します。これらのセルフチェックはあくまで目安であり、もし少しでも異常を感じたり、気になる症状があれば、自己判断で放置せずに、必ず専門の医療機関を受診して相談するようにしてください。

病院での検査と診断の流れ|どんなことをする?

甲状腺の病気を疑って初めて専門医を受診する際、「これからどんな検査を受けるのだろう」「どれくらい時間がかかるのだろう」と不安に感じる方も少なくありません。しかし、甲状腺疾患の診断プロセスは、いくつかのステップを経て着実に進められますのでご安心ください。

まず、医師による問診と触診から始まり、次に甲状腺の「機能」を調べる血液検査や、「形」や「構造」を視覚的に確認する超音波(エコー)検査といった基本的な検査に進みます。これらの検査で異常が見つかったり、しこりの性質を詳しく調べる必要があったりする場合には、穿刺吸引細胞診やCT検査などの精密検査が行われることがあります。

それぞれの検査が何のために行われ、どのような情報が得られるのかを理解することで、安心して受診に臨むことができるでしょう。ここでは、一般的な甲状腺疾患の診断に至るまでの検査の流れを、ステップバイステップで詳しく解説していきます。

問診・触診

診察の第一歩は、医師との対話である「問診」です。医師はまず、首の腫れや違和感がいつ頃から始まったのか、どのような症状があるのか(動悸、体重の変化、疲れやすさなど)、現在服用している薬やサプリメントの有無、そして甲状腺疾患の家族歴などを詳しく尋ねます。これらの情報から、患者さんの全体的な状態や、どのような病気が疑われるのかを把握していきます。

問診の次には「触診」が行われます。医師が直接、患者さんの首に触れて甲状腺の状態を確認する診察です。甲状腺の大きさ、硬さ、表面が滑らかか凹凸があるか、しこりの有無、そして触れた際に痛みがあるかなどを丁寧に確認します。患者さんによっては、唾を飲み込んでもらいながら甲状腺の動きを見ることもあります。問診と触診は、その後の検査方針を決定する上で非常に重要な診察となります。

血液検査:甲状腺ホルモンや自己抗体の数値を調べる

血液検査は、甲状腺の「機能」が正常に働いているかを評価するために不可欠な検査です。主に、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモン(FT3、FT4)と、脳下垂体から分泌され甲状腺を刺激する甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値を測定します。これらのホルモンのバランスを見ることで、甲状腺機能が活発になりすぎているのか(機能亢進症)、あるいは低下しているのか(機能低下症)を正確に判断することができます。

さらに、バセドウ病や橋本病といった自己免疫疾患が疑われる場合には、その原因となる「自己抗体」の有無も血液検査で調べます。具体的には、バセドウ病の診断に用いられるTRAb(抗TSH受容体抗体)や、橋本病の診断に有用なTPOAb(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)などが検査項目に含まれます。これらの抗体の有無と数値によって、病気のタイプを特定し、適切な治療方針を立てるための重要な情報が得られます。

超音波(エコー)検査:甲状腺の大きさやしこりの性状を確認

超音波(エコー)検査は、甲状腺の「形」や「内部構造」を視覚的に評価するために非常に有用な検査です。人体に無害な超音波を利用するため、痛みもなく、体に負担をかけることなく詳細な情報を得られます。この検査では、甲状腺全体の正確な大きさや、腫れが全体的な「びまん性」なのか、特定の部位にしこりがある「結節性」なのかを確認します。

もししこりが見つかった場合には、その大きさ、形状、境界がはっきりしているか不明瞭か、内部が液体で満たされている「嚢胞」なのか、あるいは細胞が詰まっている「充実性」なのか、さらには石灰化の有無などを詳細に観察します。これらの情報から、しこりが良性である可能性が高いのか、あるいは精密検査が必要な悪性の可能性を疑うべきなのかといった判断材料を甲状腺専門医が総合的に評価していきます。

穿刺吸引細胞診:しこりが良性か悪性かを判断

超音波検査で悪性の可能性が疑われるしこり(結節)が見つかった場合、そのしこりが良性なのか悪性(がん)なのかを確定診断するために行われるのが、穿刺吸引細胞診です。この検査では、超音波画像でしこりの位置を正確に確認しながら、採血に使うものよりもさらに細い針をしこりに刺し、内部の細胞を少量吸引して採取します。採取された細胞は病理医によって顕微鏡で詳細に検査され、がん細胞が含まれていないかを確認します。

この検査は、甲状腺がんの確定診断において非常に重要な役割を果たします。多くの場合、採血時と同程度かそれより痛みが少なく済み、外来で短時間のうちに行うことができます。この検査によって、不必要な手術を避け、本当に治療が必要な場合にのみ適切な介入を行うことが可能です。検査結果が出るまでには約1週間かかります。

CT検査などの画像診断

CT検査やMRI検査といった画像診断は、すべての甲状腺疾患の患者さんに行われるわけではありません。主に、穿刺吸引細胞診で甲状腺がんと診断された場合や、その疑いが非常に強い場合に、がんの詳しい広がり具合を評価するために実施されます。これらの検査は、超音波検査だけでは確認しにくい、周囲の組織の状態をより詳細に把握するのに役立ちます。

具体的には、がんが甲状腺の周囲にある気管や食道、重要な血管、神経などにどの程度及んでいるか(浸潤の有無)、また首のリンパ節に転移がないかなどを詳細に確認します。これらの情報は、手術が必要になった際の手術範囲を決定したり、術後の放射線治療や化学療法の計画を立てたりする上で、非常に重要な判断材料となります。

原因別の治療法|仕事や生活への影響は?

甲状腺の病気と診断された後、どのような治療が行われ、それが日々の生活や仕事にどう影響するのかは、多くの患者様にとって最も気になる点ではないでしょうか。甲状腺の治療法は、病気の具体的な種類、症状の重症度、患者様の年齢、そしてどのようなライフスタイルを送っているかによって、多岐にわたります。

主な治療の選択肢としては、薬を服用する「薬物療法」、放射線を利用して甲状腺の働きを調整する「放射性ヨウ素(アイソトープ)治療」、そして甲状腺の一部または全体を切除する「手術」があります。また、病状によっては、定期的に検査をしながら様子を見る「経過観察」も重要な選択肢です。

このセクションでは、それぞれの治療法が、通院頻度、入院の有無、可能性のある副作用、そして治療後の生活といった具体的な視点から、仕事や日常生活にどのような影響を与えるのかを詳しく解説していきます。

薬物療法(抗甲状腺薬、甲状腺ホルモン薬)

薬物療法は、甲状腺の病気において最も広く用いられる治療法の一つです。この治療法は、主にバセドウ病のような甲状腺機能亢進症や、橋本病などによる甲状腺機能低下症の患者様に適用されます。

バセドウ病の治療では、「抗甲状腺薬」が用いられます。この薬は、甲状腺内で過剰に作られている甲状腺ホルモンの合成を抑えることで、ホルモン量を正常な範囲に調整します。治療開始当初は必ずき2週間毎の定期的な通院と血液検査でホルモン値、副作用評価を確認し、薬の量を細かく調整していくことが大切です。治療初期には、皮膚のかゆみや発疹、まれに肝機能障害などの副作用が現れることもありますが、ほとんどの場合は適切な処置で対応可能です。

一方、橋本病などによる甲状腺機能低下症の場合には、「甲状腺ホルモン薬」が処方されます。これは、体内で不足している甲状腺ホルモンを補うための薬であり、一度服用を始めると生涯にわたって続けることが多いですが、薬を減量出来たりち休薬することも可能な場合もあります。この薬は、体に必要なホルモンを補うものであるため、副作用はほぼなく、非常に安全に長期間服用することができます。いずれの薬物療法においても、薬でホルモン状態が安定すれば、健康な方と変わらない日常生活や仕事を続けることが十分に可能です。

放射性ヨウ素(アイソトープ)治療

放射性ヨウ素(アイソトープ)治療は、主にバセドウ病の治療選択肢の一つとして行われます。この治療は、放射線を出す性質を持つヨウ素のカプセルを服用することで行われます。甲状腺には体内のヨウ素を集めるという特殊な性質があるため、服用した放射性ヨウ素は甲状腺に選択的に集積し、その放射線によって甲状腺の細胞を部分的に破壊・縮小させることで、過剰なホルモン分泌を抑える効果が期待できます。

この治療のメリットは、薬物療法では効果が不十分な場合や副作用で継続が難しい場合に、比較的高い確率で病気の根治が期待でき、手術を回避できる点にあります。一方でデメリットとしては、治療後数ヶ月から数年後に甲状腺機能が低下し、最終的に甲状腺ホルモン薬の生涯にわたる服用が必要になる可能性が高いことです。また、妊娠中や授乳中の方はこの治療を受けることができません。治療後しばらくの間は、周囲への被ばくを避けるために、他人との接触を制限したり、排泄物の処理に注意したりするなど、一定の生活上の制限が必要となる場合もあります。

手術(甲状腺切除)

手術による甲状腺の切除は、甲状腺の病気に対する根治的な治療法の一つです。手術が選択される主なケースとしては、甲状腺がんの確定診断を受けた場合、薬物療法では効果が不十分であったり副作用で続けられなかったりするバセドウ病、そして、しこりが非常に大きくなり気管を圧迫して息苦しさなどの症状が出ている良性の結節などが挙げられます。

手術では、病状に応じて甲状腺の一部(亜全摘術)または全体(全摘術)を切除します。入院期間は通常1週間程度で、仕事復帰までの目安は個人の回復具合や仕事の内容にもよりますが、数週間から1ヶ月程度となることが多いです。術後には首に傷跡が残りますが、近年では目立ちにくい方法も多く採用されています。手術にはいくつかの合併症のリスクも伴います。例えば、声帯を動かす神経(反回神経)が甲状腺の近くを通っているため、一時的または永続的に声がかすれるリスク(反回神経麻痺)があります。また、甲状腺の裏側にある副甲状腺も一緒に切除された場合、体内のカルシウム濃度が低下し、手足のしびれなどが生じるリスク(副甲状腺機能低下症)もあります。

特に甲状腺を全摘した場合は、体内で甲状腺ホルモンが全く作られなくなるため、生涯にわたって甲状腺ホルモン薬の内服が必要となります。手術は病気を根本的に解決する有力な手段ですが、これらのリスクや術後の生活の変化についても、事前に医師と十分に話し合い、納得した上で選択することが重要です。

経過観察

積極的な治療をすぐに開始せず、定期的に病状の変化がないかを確認していく「経過観察」も、甲状腺の病気における重要な選択肢の一つです。この方法は、「放置」とは大きく異なり、甲状腺専門医の管理のもとで定期的な検査を通じて病状を綿密にモニターすることを指します。

経過観察が適用される代表的なケースとしては、甲状腺機能が正常に保たれている橋本病の患者様や、超音波検査で良性と診断され、サイズも小さい甲状腺結節などがあります。具体的には、年に1〜2回程度の定期的な通院で、血液検査によるホルモン値の確認や、超音波検査による甲状腺の大きさや結節の変化を観察し続けます。この期間中に病状が悪化したり、自覚症状が現れたりした場合には、速やかに薬物療法や手術などの治療に移行します。

経過観察の期間中は、特別な生活制限はほとんどなく、普段通りの日常生活や仕事を続けることができます。不要な治療を避け、患者様の心身への負担を最小限に抑える上で、経過観察は非常に合理的な選択肢と言えるでしょう。

甲状腺の病気に関するQ&A

ここまで、甲状腺の腫れ(甲状腺腫)の原因となる様々な病気や、その診断、治療法について詳しく解説してきました。しかし、実際に「甲状腺が大きい」と指摘されたり、気になる症状があったりする場合、具体的に「何科を受診すれば良いのか」「治療にかかる費用や期間はどのくらいなのか」「妊娠や出産に影響はないのか」といった、より実践的な疑問が湧いてくることでしょう。このセクションでは、皆さんが抱きがちなそうした細かな疑問に対し、専門家の視点から分かりやすくお答えしていきます。

何科を受診すれば良い?

甲状腺の病気を専門的に診る甲状腺専門医施設です。これらは甲状腺ホルモンを含む、体内のホルモンバランスの異常を専門とする施設であり、最も適切な診断と治療を受けることができます。

もし、お住まいの地域に内分泌を専門とする医療機関が見当たらない場合は、まずは総合内科専門医やかかりつけ医を受診して相談してみましょう。そこで甲状腺疾患が疑われた場合、適切な専門医や医療機関を紹介してもらえるはずです。また、甲状腺がんの手術など、外科的な治療が必要となる場合には、「甲状腺外科」「内分泌外科」、あるいは「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」が担当することが多いので、必要に応じてこれらの専門科を受診することになります。

治療にかかる費用や期間は?

甲状腺疾患の治療にかかる費用や期間は、診断された病気の種類、症状の重さ、選択される治療法によって大きく異なります。例えば、薬物療法の場合は、数年間から場合によっては一生涯にわたって薬を飲み続ける必要があるため、治療期間は長期にわたります。一方で、手術や放射性ヨウ素(アイソトープ)治療は、比較的短期間で治療自体は完了しますが、その後も定期的な経過観察やホルモン補充が必要となることがほとんどです。

治療費用については、ほとんどの甲状腺疾患の治療が健康保険の適用範囲内で行われます。医療機関の窓口やご加入の健康保険組合に相談してみることをお勧めします。

食事や日常生活で気をつけることは?(ヨウ素の摂取など)

甲状腺の病気と聞くと、食事制限が必要なのではないかと心配される方もいらっしゃるかもしれません。特にヨウ素の摂取については注意が必要です。日本人は日常的に海藻類を多く摂取するため、通常、食事から十分なヨウ素を摂っています。そのため、健康な方がサプリメントなどで追加のヨウ素を摂取する必要は基本的にありません。

特に橋本病の患者さんの場合、ヨウ素の過剰摂取は甲状腺機能低下を悪化させる可能性があります。昆布や昆布だしを多用した料理、ヨウ素を含むうがい薬の使用などにはホルモン異常を認めている方の場合、時に注意が必要です。一方で、バセドウ病の患者さんでは、通常、特定の食事制限は不要とされています。いずれの病気においても、自己判断で極端な食事制限を行うことは避け、必ず主治医の指示に従うことが最も重要です。ご自身の病状に合わせた適切な食生活について、医師や管理栄養士に相談するようにしましょう。

妊娠・出産への影響は?

甲状腺ホルモンの異常は、女性の生殖機能に深く関わっているため、月経不順、不妊、あるいは妊娠中の流産や早産のリスクを高める可能性があります。しかし、最も重要なのは、甲状腺疾患があっても、妊娠前から適切な治療を受け、甲状腺ホルモンの状態を正常にコントロールできていれば、健康な方と同様に安全に妊娠し、出産することが十分に可能であるという点です。当院でも大変多くの近隣の産婦人科よりご紹介頂いておりますが、多くの方が無事にご出産に至っております。不妊でお悩みの方は、甲状腺機能と妊娠には密接な関係がありますので、既に産婦人科で検査を受けていらっしゃる場合以外、必ず一度は甲状腺機能検査にご来院されることをお勧め致します。

妊娠を希望される場合は、必ず事前に主治医に相談し、治療計画を見直すことが非常に重要です。例えば、妊娠中に服用できない薬がある場合や、薬の量を調整する必要がある場合があるため、医師の指導のもとで適切な準備を進めましょう。また、出産後はホルモンバランスが大きく変化するため、甲状腺疾患の病状が変動しやすい時期です。そのため、産後も定期的な診察を受け、継続的な甲状腺機能の管理が必要になります。

まとめ:甲状腺の腫れは放置せず、まずは専門医に相談しよう

この記事では、「甲状腺が大きい」という状態、すなわち甲状腺腫について、その原因から考えられる病気、診断方法、そして具体的な治療法までを詳しく解説してきました。甲状腺の腫れは、体質的なものや経過観察で十分な良性のものから、バセドウ病や橋本病といったホルモン異常を伴う病気、さらには甲状腺がんのような治療が必要な病気まで、その原因は多岐にわたります。しかし、多くの甲状腺疾患は、適切な診断と治療を受けることで、良好にコントロールでき、健康な方と変わらない日常生活を送ることが可能です。

首の腫れや、倦怠感、動悸、体重の変化など、気になる症状があるにもかかわらず、ご自身で判断して放置してしまうのは危険です。インターネットの情報だけで不安を募らせるのではなく、無駄な医療を減らす為にもまずは勇気を出して甲状腺専門医に相談することが、ご自身の健康を守るための最も確実な第一歩となります。早期に適切な診断を受け、病状に合った治療を開始することで、不安を解消し、安心して日々を過ごせるようになりますので、ぜひ甲状腺専門医施設療を受診してください。

執筆者

医療法人社団慈京会 理事長・院長
五十子いらこ たい

経歴

東京慈恵会医科大学卒業
ハーバード大学 ダナ・ファーバー研究所留学
京都大学附属病院 探索医療センター 医員
東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病 代謝内分泌内科 医員
伊藤病院 外来
東京慈恵会医科大学付属病院 金曜午後(第一)外来

資格

日本医師会認定産業医
日本甲状腺学会認定甲状腺専門医
日本糖尿病学会認定糖尿病専門医
日本内科学会総合内科専門医

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